銀色の玉の中で息を潜めて丸まっている

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高校のバイトの話

母校の高校でバイトをしている。放課後に空き教室で受験生の質問を受けるというバイトで、時給2100円で週1回、2時間だ。毎週水曜日。

 

これが暇。全然質問来ない。
それはそうで、オレが卒業したのが2年前だからもう後輩の殆どがオレの事なんて知らないわけだ。知らない大学生が空き教室に座ってたら質問しに行く?行かないでしょ。

 

まあそれでもオレと同じ教室で黙々と勉強してる生徒は何人かいる。

 

で、2時間座ってるだけなんだけど、Twitterばっかやってるわけにもいかない。後輩が同じ部屋で勉強してんのにスマホ弄ってるのは気がひける。だから行く前に108円で古本を買ってそれを読んでることにしてる。こんなに楽なバイトはない。

 

今日もそのバイトがあった。

 

今日は男子生徒が5人くらい、女子生徒が1人来た。皆オレに軽く会釈をしてから、教科書を開いてシャーペンを動かす。オレは東野圭吾の『手紙』を読む。最近東野圭吾にハマっている。こうやって読書の習慣が付くのはかなりありがたいな、などと思う。

 

1時間経った。


男子生徒の一人が他の生徒に化学の質問をした。質問をされた生徒は黒板に向かい何か構造式を書き始める。
それをきっかけに何人かが議論を開始した。次々に構造式が黒板に書かれ、消される。「酸化したとき…」「二重結合だから…」「メチルが…」などの言葉が交わされる。オレは文系だから彼らの言ってることは何一つ分からない。辛うじて聞き取れた単語を今並べてみただけだ。

 

更に1時間が経ち、バイトの終わる時間が近づいてきた。当然生徒たちは帰らなければならないが、議論は終わる様子がない。

 

一人黙々と勉強していた女子生徒が荷物をまとめて立ち上がった。オレは「今日は何を勉強したんですか」と聞いてみた。彼女は世界史の論述です、と答えた。なんと文転したらしい。文転の世界史は大変です、と彼女は苦笑いして「先輩は文系ですか」と尋ねてきた。オレは頷く。彼女は、来週も来ます、と言った。またね、頑張って、とオレは返した。

 

理系男子たちの議論はどうやら結論に辿り着いたようだ。少し離れた席で二人で協力して数学の問題を解いていた生徒らも解答を出せたらしい。

 

オレは帰っていく彼らに、お疲れ、と声を掛けて教室を出た。彼らに「そうやってみんなで助け合って勉強頑張っていけよ」と言おうかと思ったがやめた。彼らには不要だし、野暮だろう。

 

かなり良いではないか、と思った。
オレが見ていた光景はかなり良いではないか。

 

オレにもああやって全力で勉強した一年間があったのだ。
そして、それはきっとすごく大事なことだ。