銀色の玉の中で息を潜めて丸まっている

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ある日記

【6月22日】

 

闇屋街まで物資調達に来た。闇屋の合成肉は安いわりに食える。

 

合成肉1キロと火薬爆裂銃を交換してきた。火薬爆裂銃はオレたちの村の近くにゴロゴロ転がっている火薬鉱石と廃軍基地Aの旧式散弾銃から作る。作業は簡単だがたまに暴発するから危険だ。オレに装甲バスの運転の仕方を教えてくれた作丸じいさんも、火薬爆裂銃の製造中の暴発事故で死んだ。

 

せっかく闇屋街まで来たのでタバコが欲しかった。タバコは貴重品でほとんど手に入らないが、闇屋のいくつかは扱っているという噂だった。

 

"目ヤニ"でタバコは無いかと尋ねると店主は、あるにはあるけどねえ、とニヤつきながら揉み手をした。オレが懐からキメラ熊の毛皮を出すと目ヤニの店主は目を丸くして毛皮を引ったくり、タバコを差し出した。当たり前だ。キメラ熊を狩るのに、アキラと二人がかりで三日かかったのだ。

 

村まで装甲バスで二日といったところか。

 

 

 

【7月1日】

 

村に着いた。途中赤軍の残党がうろついていて、回り道をしたので時間がかかってしまった。妻が泣いて迎えてくれた。伝言虫を飛ばしていたのだが届いていないようだ。ペトラ鳥に食われてしまったのだろうか。

 

装甲バスの燃料が途中で切れてしまったが、近くに油海があったから助かった。戦争が終わってから、鈍色の機械油が溜まった油海があちこちにある。

 

アキラはいなかった。アキラが寝泊まりしている廃家にはあいつが飼っているネコが寝ているだけだった。アキラはどうやらペトラ鳥の卵を取りに行ったらしい。

 

ペトラ鳥は恐らく、放射性物質で巨大化したカラスか何かだと言われている。産卵期のペトラ鳥は凶暴で、単独で巣に行くのは危険だが、火薬爆裂銃の扱いに長けたアキラはいつも一人で卵を取りに行っていた。

 

 

【7月3日】

 

アキラが死んだ。ペトラ鳥にやられたのだ。この日ペトラ鳥は異様に気が立っていたらしい。アキラが巣に近づく前に襲いかかって来たようだ。今までそんなことはなかった。赤軍の残党どもが何やらやっている毒ガス実験が関係あるのかもしれなかったが、詳しいことはわからなかった。これからはあまり気軽にペトラ鳥の卵を取りにも行けないねえ、と千里婆が言っていた。

 

オレは釣竿を担いで海に向かった。途中で砂塚に無造作に手を突っ込んで、うごめく砂蟲の塊を掴み出してポケットに入れた。餌にするためだ。

 

こんな死んだ海でも生き物はしぶとく息づいている。この辺りでは唇魚か袋ガレイが釣れるはずだった。

 

ドブ色の海に釣り糸を垂らしているとアキラのネコが来て隣に寝転んだ。お前か、と呟いてオレは浮きを見つめた。

浮きはピクリとも動かなかった。