寿限無の話
「寿限無」という有名な落語の話を知っているだろうか。
子どもに縁起の良い名前をつけようとして、縁起の良い言葉をたくさん繋げたら結果的にめちゃくちゃ長い名前になってしまうという話だ。
その名前は以下のようなものだった。
五劫の擦り切れ
海砂利水魚の水行末雲来末風来末
食う寝るところに住むところ
やぶらこうじのぶらこうじ
長久命の長介
そらで言える人も少なくないだろう。
だが、意味を知っているだろうか。
これらの言葉は全て縁起の良いもので、意味があるのだが、これだけ見ても意味がわからないだろう。
現代、2019年、令和元年に通じるように、寿限無もアップデートされるべきではないか。
もっとわかりやすく、良い意味を持った言葉を並べた方が良いのではないか。
私はそう思った。
一つ一つ検討してみようと思う。
これは変更の余地が無いだろう。タイトルだから。寿限無あってこその寿限無である。
2.五劫の擦り切れ(ごこうのすりきれ)
天女が三千年に一度、須弥山のてっぺんを羽衣でサッと一撫でする。それによって山が擦り切れるまでの時間、これが「一劫」である。「五劫の擦り切れ」とはすなわち途方もなく長い時間のことを言う。
いやわかりにくいな〜〜〜〜〜
伝わらないわ〜〜〜〜
伝わらない言葉とか表現者のマスターベーションに過ぎないわ〜〜〜〜
要は「めちゃくちゃ長い時間」であれば良いわけだ。
めちゃくちゃ長いといえば、やはり「駅のトイレで個室から人が出てくるのを待っている間」だろう。全員死んでるのかと思うくらい出てこない。
あとは「全然興味ない偉い人の話」だろう。終わるみたいな雰囲気出してからあと20分喋る。
今日はこんな感じで進めていきます。よろしくお願いします。
「五劫の擦り切れ」→「駅のトイレで個室から人が出てくるのを待っている間、全然興味ない偉い人の話」
3.海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)
海の砂利とか魚みたいに膨大な数があること。
いやこれもまた「いっぱいある」って言えばいいんだから。
いっぱいあると言えば、やはり「インドのでっかいナンが出てくるカレー屋」だろう。
全ての街にある。もう誰も「ナンでっかい」って言わなくなってきた。慣れてきたから。メニューも大体一緒だし、多分インド全体で「日本であのメニューとでっかいナン出せば売れる」って噂になってるんだと思う。
あと店内はネパールの国旗があったりするし仏教なのかイスラム教なのかヒンドゥー教なのかよくわかんない感じの装飾とかがある。
「海砂利水魚」→「インドのでっかいナンが出てくるカレー屋」
4.水行末雲来末風来末(すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ)
水や雲、風の行く末のように果てがないこと。
「終わらない」ってことね。
となればやっぱり「復讐」だろう。
復讐の連鎖に終わりはないから。
「水行末雲来末風来末」→「復讐」
5.食う寝るところに住むところ
生活において大切なもののこと。
でも、「食う寝るところに住むところ」って要するに全部家じゃないですか?
だからこの三つは「家」でまとめて良いな。あと二つ大事なものを入れる余地ができた。
そうだな、やっぱ大事なことと言えばホウレンソウ。報告、連絡、相談。
あとは誇り。誇りを失ったら人間はおしまいだから。
「食う寝るところに住むところ」→「家とホウレンソウと誇り」
6.やぶらこうじのぶらこうじ
生命力豊かな木のこと。植物のようにたくましく生きてほしいということだろう。
言ってることはわかるけど「やぶらこうじ」ってダセ〜〜〜〜。
特に「ぶら」がダセ〜〜〜〜。ぶらぶらしてるものにかっこいいものって一つもないからね。
ただ発想は良い。たくましさを象徴するものとして植物を持ち出すその着眼点は評価したい。なので、「アスファルトを押しのけて咲く、一輪の花」にしよう。
「やぶらこうじのぶらこうじ」→「アスファルトを押しのけて咲く、一輪の花」
なに?ふざけた?
リズムだけ??
リズムだけで良いの??
そうします。
「パイポパイポパイポのシューリンガン」→「やんややんややんやの大喝采」
8.シューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナー
おい。
おいおい。
嘘だろ。
もう考えるの飽きた?
やめようかもう。
もうやめる?いいんだよこっちは別に。
あんたがやるって言うからやってるんだから。
これ何、好きなこと言っていいってこと?
言いたい放題のコーナー?
「シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナー」→「(言いたい放題のコーナー)」
9.長久命の長介(ちょうきゅうめいのちょうすけ)
ここはこのままでいこう。最初と最後は大事だから。
さて、寿限無の全てが改善された。これからは以下が寿限無となる。
駅のトイレで個室から人が出てくるのを待っている間
全然興味ない偉い人の話
インドのでっかいナンが出てくるカレー屋
復讐
家とホウレンソウと誇り
アスファルトを押しのけて咲く一輪の花
やんややんややんやの大喝采
オレたちは悲しいことやモヤモヤすることがあったときに、楽しかったことも一緒くたにして嫌悪してしまうけど、楽しかったことはそれだけで大事にしまっておかなければならないな。恐ろしいことに嫌な出来事は黒い絵の具で、色鮮やかな思い出に少しでも混ざるとそれも濁らせてしまうから、キッチリとしまう場所をわけておかなきゃいけない。侵食を止めるには多少の努力を必要とするけど、それをしないで全部を汚くしてしまうのはオレたちの怠慢だから、楽しかったその瞬間の素直な気持ちを絶対に忘れないように努力する。そして嫌な出来事はなるべく封じ込めて時間に解決を任せてしまう。楽しいことをたくさんして、好きな人にいっぱい会った方が賢い生き方だと思いませんか。オレたちは偉大でかわいいんだから。
長久命の長介