銀色の玉の中で息を潜めて丸まっている

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日記(10月23日)

「ちょっとパン食べ過ぎか」とオレは言った。

 

目の前に座る兄は「佐賀県産鶏のブランケット〜トランペット茸のバターライス添え〜」をCoCo壱のハンバーグカレーのようにかき込みながら「なにがよ」と言ってワイングラスに注がれた水を一気に飲み干した。兄は徹底した下戸である。

 

土曜日の昼、両親と兄とオレは常連となっているフランス料理屋でコースを食べていた。兄はここで添えられるパンが大好きで、「レストランを閉めてパン屋にした方がいい」などと失礼なことを言っていた。

この日も料理が来る前に出されたパンをサッサと平げ、パンのおかわりを持ってきたソムリエに「今日はちょっと危険なペースですね」と言われていた。酒じゃなくてパンのペースを危惧される、変な人。

 

兄は身長は150cm台後半だが、ガタイがよく、体重はオレよりもある。しかし特に運動をしているわけではなく、休日は寝るか、ゲームをするか、パチンコを打つかであり、どこから錬成される筋肉なのかは誰も知らない。小学校で担任に呼び出され、中学で補導され、高校で無期停学になった彼も今や小学校の教師である。

 

ワインを既に三杯空けている父が「お茶とコーヒーは何故誕生したのか」というウンチクを語り出した。兄は腕を組んで目を瞑っている。

母は小声でオレに「ハンくん(ペットのコーギー)がわかんない話聞いてる時の顔」と言って首を少し傾けて視線を右上に泳がせ、「ふ〜ん」と呟く。父は意に介さず「とにかく、人類にとって、水は不味くて飲めなかったんですよ」と喋り続ける。父は農学博士であり、大学で教鞭を振るっているが、母と兄にかかればこの通りだ。

 

父と兄は「オレンジとカスタードのクレープ」を、母とオレは「ゴーヤのアイスクリーム」をデザートに注文した。今は「兄が小学校の時に釣ってきたザリガニを鍋で茹でて醤油と塩をかけて食べ、残った殻を担任の机に突っ込んでおいた」という話で盛り上がっている。

 

兄が母のゴーヤアイスを少しもらい、食べると「なにこれ」と吐き捨てるように言った。オレは「人の食べ物もらって『何これ』とか言う人いないって」と言った。母が「ほら、もっと食べな」とゴーヤアイスを兄に与え、兄は口に放り込んで、「氷だ」と言った。「もう二度とあげるな」とオレは言った。