銀色の玉の中で息を潜めて丸まっている

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実は使える!ライフハック10選

日々の生活に必要なものといえばもちろん、ライフハックですよね。「ライフハックがなくて困った」という経験は誰しもにあるもの。いざという時にライフハックがないと大変ですね。そこで今回は、皆さんの生活に必要なライフハックを10個紹介します!

 

 

 

1.しおりを挟む

本を読んでいる時に、途中で一度他のことをしなくてはいけないときってありますよね。そうすると、次に読む時に自分がどこまで読んだのかわからなくなることが多いです。そんな時は、しおりを挟んでおくと自分がどこまで読んだのかわかりやすくておすすめです。しおりがない場合はレシートなどを挟みましょう。

 

2.充電をする

携帯を使っていると、電池がなくなってしまうことがあります。電池がなくなってしまうと、携帯が使えなくなってしまいますね。Twitterを見たり、パズドラをしたりできないのは困りますよね。そんな時に携帯を捨てていませんか?毎回新しいものを買っているとお金がかかりますよね。実は、充電するともう一度使うことができるのです。何回も使えるなんてお得ですよね。是非使ってほしいライフハックです。

 

3.冷ます

料理を作ったり、レンジで温めたりしたあと、すごく熱いことがあります。そのまま食べると口の中を火傷して嫌な気持ちになってしまいますよね。そんな時は一度冷ますのがおすすめ。冷ますと、熱くなくなるんです。冷ましすぎると美味しくなくなるので注意しましょう。

 

4. 鼻をかむ

生きていると誰もが悩まされるのが、鼻水。鼻水が出ているとみっともないですよね。そんな時に、なんとティッシュが活躍するんです。やり方は簡単。ティッシュを鼻に当てて手で抑えます。そのまま片方の鼻の穴を潰して、強く鼻から息を吐きます。これだけで鼻水が取れることが多いです。両方の鼻の穴を潰してしまうと息が吐けないので、必ず片方ずつ潰すようにしましょう。

 

5.皿を使う

料理を作ったあと、テーブルにぶちまけていませんか?お肉や野菜は良いですが、味噌汁やスープなどはテーブルの上で広がってしまって飲みにくいですよね。そんな時には皿に入れるのがおすすめ。皿は意外に簡単に買えるので、探してみてはいかがでしょうか。 

 

6.時計を見る

「〇〇時に集合」と言われても、今が何時なのかわからない…というときありますよね。今が何時なのかわからないと、予定を立てたり、待ち合わせに間に合うことは難しいです。そんな人にオススメなのが、時計を見ること。実は時計には今の時間が表示されているんです。時間を読み取るのには少しコツがいりますが、慣れれば簡単ですよ。いつも時間に間に合っているあの人も、時計を見ているのかもしれませんね。

 

7.じゃんけんで決める

複数人の間で何かを決めなければならない時、意見が合わないこともありますよね。話し合いで決まれば良いですが、議論が難しい問題もあります。どちらが正しいのか、権利を有しているのか明瞭でないときは、じゃんけんで決めるのがオススメ。じゃんけんのルールは少し複雑なので、相手が知っているのか事前に確認しておくと良いでしょう。ただし、「結婚するかどうか」「有罪か無罪か」などをじゃんけんで決めようとすると怒られる場合があるので注意。

 

8.その場から離れる

「なんとなく居心地が悪いな」「面白くないな」「うるさいな」「臭いな」と感じる場所は人それぞれあります。そんなとき、その場に居続けるのではなく、離れてみるのはどうでしょうか。離れるとその場に居なくて済むので解決することが多いです。離れる方法は「歩いて離れる」「走る」「自転車に乗る」「這う」などがあるので自分に合った方法を使ってみてくださいね。

 

9. 寝たら起きる

睡眠は大切ですが、寝たら起きるのがおすすめ。あのエジソンスティーブ・ジョブスも寝たあとは必ず起きていたとか。寝てる間はご飯を食べたりできないので、起きると良いですね。起きるとご飯を食べたりすることができます。

 

10.走る

普段歩いていて、「間に合わないな」と感じることは誰にでもあると思います。そう感じた時には自転車やバイクに乗ると素早く移動できますが、いつでも自転車やバイクがあるわけではないですよね。そんなときにそのまま歩き続けて時間に遅れていませんか?実は、走ると素早く移動することができるのです。簡単ですよね。ただし、走り過ぎには注意。疲れてしまう場合があります。疲れると嫌な気持ちになるので、少し走るのが良いでしょう。

 

いかがでしたか?ライフハックはあると便利ですが、ないと便利ではありません。この記事で紹介したライフハックを使って、生活してみてくださいね!

 

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天狗山

 「書くことですよ、青山さん、とにかく書くことです」

 と言って千田はぐーっとビールを煽った。「書かなければ終わりませんからね。しかしそれは書けば終わるってことですよ」

 千田は若干ろれつが回らなくなっている。俺は最後の餃子を口に放り込んで「そんなことはわかってるんだよ」と凄むように言った。

 俺はルポライターで、千田は編集者だ。廃れていく地域社会をテーマに独居する老人を取材したり、大学を卒業したが就活に失敗した「就職浪人生」のことを書いたりしてきた。しかし今回千田が持ってきた仕事は、「都市伝説の真実を探る」というものだった。千田は「もう、社会問題なんかを取り上げてる時代じゃないんだと思います。オカルトなんかが一番喜ばれるんですわ」と頭をかいた。

 方針が変わっても俺に原稿を回してくれているのはありがたい話だが、俺には都市伝説の知見などなく、何から取材したら良いのかわからない。そう言うと千田はまあまあ、と俺を馴染みの「柳」へと連れ出したのだった。

 「あまり真面目に考えてはダメです。そもそも都市伝説なんてものがふざけた話なんですからね。適当な話を見つけて、地元の人たちに話聞いて、真相は藪の中、これでいいじゃないですか。シンソウヤブですよ、シンソウヤブ」

 千田は適当に喋っているが、案外そんなものなのかもしれなかった。追加のビールを運んできたバイトのユキちゃんに聞いてみる。

「何か都市伝説って知ってる?」

「都市伝説ですか?あっ!トトロは実は死神で、サツキとメイちゃんはもう死んでるって聞いたことありますよ!影が無くなってるとかなんとか!」

「トトロが死神ねえ。じゃあラーメンマン閻魔大王か」

ラーメンマン?」

俺はユキちゃんとのジェネレーションギャップを嘆きつつ、追加でマグロ刺身を注文した。はーい、と厨房に戻っていく。

「トトロは権利関係が難しいかもしれないですねえ」

と千田が何故か真面目な顔で言う。書くわけがないのだ、そんなものは。まずは骨のありそうな都市伝説を探さなくてはならない。「柳」に来たは良いが方針はまるで立っていないままだ。

「あっ、そういえば青山さん。私思い出しましたよ」

「トトロは死神だって話か」

「違いますよ。あの、河南にも都市伝説ありましたよね。神隠しがなんたらって」

「河南にも?」

 実は俺と千田は同郷である。一緒に仕事をし始めてからそれが判明し、一気に意気投合したのだ。俺たちは東北にある「河南」という町のような村のようなところから上京してきていた。まさか東京で河南の人間に会えるとは思わなかったので嬉しかった。世間は狭いものだ。

「河南にそんな話があったかなあ…」

「ありましたよ。神隠しです。絶対ありました。神隠しなんか一番良いんじゃないですか。都市伝説中の都市伝説。都市伝説のグランドチャンピオンですわ」

 千田はそう言って箸を振り回した。

 次の日、俺は河南に行ってみることにした。他に当てもなかったし、両親が他界してから河南にも帰っていなかったので丁度良い機会だと思った。河南までは特急を使えば二時間とかからない。他に抱えていた原稿を車内で片付けてしまおうと思っていたがどうにも集中できず、そのまま眠ってしまった。

 

 俺は山の中を走っていた。何かに追われているのだろうか。とにかく、後ろを振り返ってはいけない、という思いだけがあった。俺は泣いていた。混乱していた。早くここを離れよう、と考えていた。夕暮れどきのようで、山の中は薄暗かった。俺は木の根に足を取られながら必死で走り続けた。

 

 大きく電車が揺れて目が覚めた。また同じ夢だ。山の中を走るこの夢は俺が子供のときから何度も見るものだったが、俺自身にそんな経験はなかった。特に害もなかったので誰にも話したことはない。どうせ映画かなにかで見たものが焼き付いてしまったのだろう。電車はもうすぐ河南に着きますよと機械の男の声が告げていた。

 河南で降りたのは俺だけだった。俺はホームに出ると意味もなく伸びをした。駅前に出るとタクシーが一台止まっていたので、乗り込んで宿の名前を告げた。

「お客さんどこから来たんですか」

「東京ですよ」

「へー、東京から!」

と運転手が驚いたように言った。俺はダメ元で聞いてみることにした。

「実は私雑誌の記者をやってましてね。取材に来たんですよ」

「取材ったってなあ、何にもないですよ。ああ、こないだトクさんが山ででかい熊を一頭仕留めましたよ。裏手の山でね。あれは本当にでかいやつだったなあ。このあたりのね、ボスだと思いますよ。それですか」

 運転手は本気かどうかわからないようなことを言う。

「いえ、この辺りで神隠しの噂があったりしませんか。それを取材に来たんですけどね」

神隠し?ああ……たしかに昔あったかもしれないですよ。でも、もう二十年前くらいになるんじゃないですか?私が中学生くらいだったころですからね」

 そのくらい前だったら俺も河南にいただろう。なぜ俺は神隠しの話を全く知らないのか。幼すぎて忘れてしまっただけだろうか。

 

 久しぶりに会ったタツヤは全く変わっていなかった。河南に残っている数少ない友人で、俺は河南に帰るといつも彼と飲むことにしていた。タツヤは三年前に結婚して、二人の子供と奥さんと暮らしている。奥さんもまた河南出身だった。河南のことならなんでも知っている、そんな男だ。

タツ、河南に何か都市伝説のようなものはあるか」

「なんだお前そんなものに興味があるのか」

「仕事だよ」

「変な仕事だな」

タツヤは怪訝な顔をして言った。

「都市伝説と言えばお前、神隠しの話があったじゃないか」

やはり神隠しである。河南の人間全員が知っている話なのだ。俺を除いては。

「なんだお前、忘れたのか」

タツヤは驚いた顔をして俺を見る。

「あれは確か俺たちの同級生がいなくなった話だったぞ。名前は…なんとかケンとかいったか……」

「俺たちの同級生?」

「そうだよ。お前なんで忘れちまってるんだ?東京行くとそうなるのか」

俺は思い出そうとするが全くダメだった。記憶の片鱗すらも蘇らない。

「それは今も行方不明、ってことなのか」

「そうだ。俺たちが小学校、二年、いや三年かな、そのくらいの話だったと思う。天狗山あるだろ。小学校の裏に。あそこに遊びに行ったまま帰ってこなかった、とかなんとかだ。大方、道にでも迷ったんだろうが、可哀想な話だ」

「小学校三年生が、天狗山に一人で遊びに行ったのか?」

「さあ」

「それに、なぜ天狗山に行ったと分かったのだろう。親に報告していたのかな。しかし一人で行くなんて、親は止めなかったのだろうか」

「そんなことまで俺に聞くなよ」

タツヤはめんどくさそうに言ってビールを煽った。

 

 あの後何度か探りを入れてみたが、どうやらタツヤもそれ以上のことは覚えていないようだった。俺は宿のベッドに寝転びながら、明日天狗山に行ってみようと思った。何か分かるとは思えなかったが、いずれにせよこのままじゃ記事にはならない。山の写真の何枚かは必要だろう。適当なお地蔵さんか何かがあれば都合が良い。そう考えた。

 

 その日も夢を見た。いつもの山を走る夢とは少し違っていた。山の中で俺は何かを追いかけている。今までの夢は寧ろ何かから逃げるような気持ちだったのだが、その日の俺は明らかに追いかける側だった。俺は興奮していた。しかし俺は、この後何か取り返しのつかないことが起こるような気がしていた。

 

 次の日俺はバスで天狗山に向かった。気持ちよく晴れていた。窓の景色を眺めながら、俺は記事をどう作ろうかと考えていた。どんなものであれ、何か仮説を立てる必要があった。

 これは失踪系都市伝説によくある矛盾だが、何故失踪した場所が特定されているのだろうか。本人は消えているのだ。事前に行き先を告げてから小学校三年生が一人で山の中に行くなんてことがあり得るだろうか。東京だと考えられないが、田舎では珍しくないのだろうか。しかし、この辺りには熊だって出るのだ。

 そうであれば、やはり誰かと一緒に山に行ったと考えるのが自然だ。二人以上で山に行き、なんらかの理由でケンだけが失踪し、無事だった者が帰ってきてこの話を伝えた、ということだろう。

 だとすればその人間が詳しいことを知っているはずだ。今日天狗山で写真を撮ったあと、その人が誰なのか調べてみようと思った。俺は取材の目処が立ったので満足して少し眠った。

 

 天狗山の中は涼しかった。心地よい虫の声が聞こえ、どこかで鳥が鳴いていた。小さい頃に何度かこの山に遊びに来たことがある。俺は大きく深呼吸をしてから、懐かしい気持ちで写真を一枚撮った。

 山の奥に進んでいくと、やはりなんとなく見覚えがあるような気がした。何年も経っているので自然物は変化しているはずだが、山全体の持つ雰囲気というのか、それを体が覚えているのだ。

 俺はあることに気がついて立ち止まった。俺が何度も見ている夢に出てくる山、あれは天狗山なのではないだろうか。特に根拠はなかったが、なんとなくそう感じた。俺の妄想が作り上げた架空の山だと思っていたが、モデルがあったのだ。だとすれば、あの夢、山の中を必死で走って、何かから逃げた、また何かを追いかけていた、あれも俺の経験なのだろうか。

 どこかでガサリ、と音がした。ザザザザ、と木々の葉が鳴った。高く伸びた木が俺に覆いかぶさってくる。いつのまにか太陽は隠れている。

 俺は山の中を走って、それを確かめようとした。

 息が切れるほど走ったあと、突然視界が開けて、目の前に崖が現れた。俺は確信した。

 神隠しにあったと言われているケン、彼と天狗山に行ったのは、俺だった。

 

 俺は学校の帰りにケンと二人で天狗山に遊びに行った。俺たちは山の中で鬼ごっこをした。その日、最初の鬼は俺だった。ケンは運動神経が良かったので、山の中で彼に追いつくのは骨が折れた。俺は必死にケンを追いかけた。ケンは笑って俺を揶揄うように振り返りながら走っていた。

 そして突然、目の前に崖が現れた。ケンは驚いたような顔をして落ちた。俺は慌てて崖下を覗いたが、彼の姿は見当たらなかった。高い崖だった。

 俺は恐ろしくなってその場から逃げた。自分が殺したような気がした。今にもケンが俺の肩を掴むのではないかと思って、泣きながら走った。

 

 俺は崖の前で座り込んでしまった。これで記事は振り出しだな、とボンヤリと考えていた。

俺たちにソリを貸さないとどうなるのか

 その日、札幌市のモエレ沼公園は雪が降っていた。イサム・ノグチという有名な彫刻家が設計したこの広大な公園は、幾何学模様を基調にして山、噴水、遊具などが整然と配置されているらしいが、今は雪に覆われているだけでよくわからなかった。

 しかし見渡す限りの雪景色は、二泊三日の北海道旅行にきた俺と彼女が札幌駅からわざわざバスで一時間かけてやってくるには十分すぎるものだった。

 公園には誰もいなかった。一組の人間と犬の足跡だけがあった。少し雪がちらついていた。特に看板のようなものもなく、俺たちはただあてもなく雪の中を進んだ。

 遭難するのではないか、と不安になってきた頃、遠くに正四面体の透明な建物が見えてきた。どうやらあれが公園のメインである「ガラスのピラミッド」というやつだろうと見当がついた。彼女と話し合い、まずあそこを目指して進み、一度中で休憩をしよう、ということになった。

 幸い「ガラスのピラミッド」は中に入ることができるタイプの建造物だった。巨大なオブジェだったらどうしようと思っていたところだ。ピラミッドの隣には駐車場があり、何台か車が停まっていた。歩いてくるような酔狂な人間はいないのだろう。ガラスの扉を開けるとまず左手にトイレがあり、奥にもう一枚扉がある。

 その向こうは休憩室のようになっており、イサム・ノグチの作品がいくつか飾られていた。俺と彼女は、ふーん、とわかったような声を出しながら手を後ろに組んで歩き回っておいた。これはイサム・ノグチに対する敬意の表明だった。

 ピラミッドの中には受付カウンターがあった。その中に人の姿は見えなかったが、「御用の方はボタンを押してください」と書いてあった。俺はボタンを押すと係の人と話せるのだと思う、と名推理を披露して彼女の尊敬を勝ち取った。そこにはもう一枚貼り紙があり、「ソリの貸し出しを行っています」と書いてあった。

 実は俺と彼女がこのモエレ沼公園にわざわざ足を伸ばした大きな理由はこのソリだった。この公園にはいくつも大きな山が配置されており、冬はソリ遊びができますよ、とインターネットに書いてあったのだ。

 彼女は「ソリ、借りられます」と嬉しそうに言ったが、俺の目はその下の文字まで素早く読んでいた。そこには「※1〜3月のみ」と書いてあった。俺は携帯を取り出して日付を確認した。12月17日であった。

 俺は彼女にこの事実をどう伝えるべきか迷った。ソリに乗るためにわざわざここまで来たのに、ソリを借りられない、となると彼女がどうなってしまうのかわからなかった。最悪の場合、斧などを持ち出される可能性もあった。かく言う俺もソリを本当に楽しみにしていた。

 俺は無言で「※1〜3月のみ」と書いてある箇所を指差した。彼女はそれを見ると「私たちソリに乗れないってこと?」と聞いてきた。俺は「今は12月17日だから1月ではない、あと二週間後には1月だけどね、だからソリには乗れない」と丁寧に説明した。彼女は「でも、聞いてみないとわからない」と言った。まだ目が諦めていなかった。

 たしかに、いくら1月ではないといえ、12月17日にソリを借りることができない道理は無いように思えた。そもそも暦とは人間が勝手に名付けたもので、本来時間の流れは悠久であり、12月17日と1月に大きな差は無いのである。映画に出てくる看守のように「さて、私は今からしばらく目を離してしまうから、その間に誰かがソリに乗っていても気づかないだろうな」と言ってくれるかもしれない。

 そのようなことを考えて俺はボタンを押した。インターホンから「はい」と女性の声がしたので、俺は「ソリを借りたいのですが…」と言ってみた。すると女性は申し訳なさそうに「すいません、1月からなんですよ」と言った。彼女が素早く「やっぱり難しいですか」と割って入ったが女性は「そうですね…」と言ったきりだった。俺たちは「ありがとうございました」と言って顔を見合わせた。

 俺は「俺たちにソリを貸さないとどうなるか教えてやろう」と力強く言った。彼女はしっかりと頷いた。

 俺たちはガラスのピラミッドを出ると一歩一歩雪を踏みしめながら雪山を登っていった。斜面は思ったよりも急だったが、俺たちは互いに鼓舞しながら確実に頂上との距離を縮めていった。

 雪に覆われた真っ白なモエレ沼公園は美しかった。息を切らしながら頂上に辿り着いた俺たちは雪の上に腰を下ろしてしばらくその全貌を眺めていた。

 おもむろに彼女が「よし!」と言って立ち上がった。そして頂上をぐるりと回って、「ここが良いと思う」と斜面の一つを指さした。彼女は斜面のふちに腰掛けると、俺の方を振り向いて「では行きます」と言った。俺は頷いた。彼女はそのまま斜面を座ったまま滑り降りていった。思ったよりもスピードが出ていた。

 斜面の途中で止まった彼女は身体中雪まみれで笑っていた。シンとした公園の中に彼女の笑い声だけが響いていた。俺は後に続くように斜面を滑り降りていった。全ての服が濡れていたが、俺たちにはそんなことは関係がなかった。

 

視力検査戦記

土曜日の朝、久しぶりに眼科に行くことにした。コンタクトレンズを買うためだ。

 

オレはコンタクトと眼鏡を併用しているが、最後に視力をしっかり測ったのは二年ほど前だ。確か両目とも0.01か2で、左目だけ乱視が入っている。最近コンタクトが合ってないような気がしてきたので眼科でちゃんと見てもらうことにしたというわけだ。

 

保険証を提出して、待合室で座っていると名前を呼ばれる。熱気球を覗いて、眼球に風を浴び、視力検査になる。

 

「どこが空いてるか教えてくださいね」とお姉さんは丁寧に視力検査のルール説明をしてくれる。二年間のブランクがあるオレにはとても助かる。初見殺しの新ルールが追加されている可能性もあるからだ。

 

オレの回答に合わせて次々とレンズが変えられる。お姉さんの手際は非常に良いが、なかなか焦点が合ってこない。オレの「おめがね」にかなうレンズは無いのか(上手い)。

 

と、オレの知らないイベントが発生した。「今のレンズと、このレンズ(別のレンズを重ねる)だったらどっちが見やすいですか?」とお姉さんに尋ねられたのだ。オレは戸惑った。主観。あまりにも主観すぎる。「視力検査」という医学的に確立された検査において、こんなにも主観が入り込む余地があるとは。「どちらが見やすい」に対して客観性はどう担保されるのだろうか。

 

オレは「うん……」と口籠もってしまった。するとお姉さんは「いきますよ〜?今のレンズと、せーの!はい!(レンズを重ねる)どっちが見やすいですか?」とエンタメ性を加えてくれた。別にオレはさっきの説明が理解できなかったから悩んでいるわけではないのだが、何となく後者の方が見やすいような気がした。

そもそも、お姉さんに「せーの!」などと言われたら見やすくなるに決まっているのだ。

 

その後もオレとお姉さんは着実にステージをクリアしていき、全クリも時間の問題かと思えた。しかし、突然お姉さんのレンズを選ぶ手が止まった。何か考え込んでいる様子だ。何か悩みがあるなら言ってほしい。何もできないかもしれないけど、そばにいることはできる。

 

どうやら、オレの選択が正規ルートにはまっていないようなのだ。恐らく視力検査には、「ここを間違えたらこのレンズ、これを正解したら次はこれ」と言った定石があるのだろうが、オレの正誤とレンズの選択がお姉さんのロジックに合致していないようだ。

 

この推理を裏付けるようにお姉さんはオレに「普段から視力出にくかったりします?」と聞いてきた。オレは「そうかもしれないです」と申し訳なさそうに言った。実際には別にそんなことはないが、お姉さんに傷ついてほしくなかった。その気持ちがオレに嘘をつかせた。神様も赦してくださるだろう。

 

お姉さんは無言で頷いた。頼もしい限りである。

 

それからオレたちは数々の試練をこなし、視力検査を終えた。オレとお姉さんは互いの健闘を讃えあいながら別れ、待合室に戻った。

 

再会の時はすぐに訪れた。待合室でよるべなく座っていたオレを、お姉さんが「こちらへどうぞ」と呼んだ。救いを得たオレは彼女の後に従い、鏡の前に座った。

お姉さんはコンタクトレンズの箱をオレに見せながら、「両目とも乱視が入っています」と言った。ふとオレは「私、前までは左だけ乱視だったんですけど、右も乱視になってますか」と聞いた。

するとお姉さんは真剣な目をして頷くと「チャレンジしてみました」と言った。チャレンジしたらしい。オレのコンタクト選びで、まさかチャレンジしてくるとは。なんて破天荒なんだ。

 

「前より良く見えますか?」と心配そうに聞かれ、オレは一応辺りを見回してから、「はい、よく見えます」と答えた。本当のところは別によくわからなかった。しかし「よかったです!」と喜ぶ彼女を見ていると、本当によく見えているような気がしてくるから、人間とは不思議なものだ。

 

最後に、コンタクトをつけた状態の視力を測って終わりになるそうだ。戦いを終えたオレは機械を覗き込んだ。熱気球が見える。あとは消化試合である。

 

と、思われた。しかし機械の向こうでお姉さんは首を捻っている。どうしたのだろうか。悩みがあるなら言ってほしい。少ないけど貯金もある。

 

お姉さんは素早く立ち上がり、「左目のレンズが合っていないようです。もう一度測りましょう」と言った。

 

その目は静かに燃えていた。強敵に出会ったことを喜んでいる、歴戦の戦士の目だった。「こちらへどうぞ」そう言って歩き出した彼女の小さい背中が頼もしかった。オレは「そうこなくてはな」と呟いて立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

探偵

「みなさんお揃いですね」

探偵はそう言って帽子を被り直した。暖炉のある大きな部屋の中には独特の緊張感が漂っている。

「大袈裟な舞台装置だな。どういうつもりだ」

大柄な男が苛ついたように言う。名前は知らない。

探偵は男を一瞥すると微笑んで言った。

「何度も説明するのは面倒ですからね。こうして皆さんに集まっていただいたのです」

ふん、と鼻を鳴らして男は椅子に座った。「早く済ませろ」

「あの…」おずおずと女性が声をあげる。「犯人が分かったのでしょうか」

「ええ。私の推理が正しければ」

オレは一週間前からこの洋館に宿泊している。ここに来た初日に、老人が殺害された。名前は知らない。

ここにはオレ以外に8人の人間が泊まっていたようで、そのうち7人は知り合い。1人がこの探偵だった。殺された老人は7人の仲間だったようで、かなりゴタゴタがあったようだが、オレには関係ない。さすがに帰ろうかと思ったが外はとんでもない大雪が続いていた。

そして最終日の今日、こうして探偵が全員を集め、推理をご披露するというわけだ。ご苦労なことだ。オレまで集めなくていいだろうと思ったがそうはいかないようだ。オレは基本的に部屋でソリティアをやっていたんだから何の参考にもならないのに。

などとボーッと考えていると、推理も中盤に差し掛かっているようだった。

「鈴木さん、あなたがドアの鍵を開けたのが20時頃。間違いありませんね?」

「ああ。少しウイスキーを飲もうと思ったんだ。戸棚から酒を出してすぐに戻ったよ」

「つまりその後鍵は開いていた。誰でも自由に出入りができたわけです」

どこの鍵の話をしているのだ。というかこの洋館にはそんな飲み放題のウイスキーがあったのか?オレはソリティアをやっていただけだから知らなかった。あとウイスキーは飲めないし

「山本さん」

「はいっ!」

急に自分の名前を呼ばれてびっくりしてしまった。オレに何か聞くことがあるのか?最初の捜査の時もオレだけ2分で質問が終わったではないか。

「あなたはその時間何をしていましたか?」

「その時間?」

「片岡さんが納屋の様子を見に行った時です」

片岡って誰だ。

「何時ですか?」「22時です」「いつの?」「18日の」「あー」

オレは考える。

ソリティアをやっていました」

そうですね、と探偵が頷く。何がそうですねだ。

大体こんな洋館に一人で泊まりに来たのが運の尽きだった。スキーをしようと思ってるるぶで宿泊施設を調べたら良い感じの洋館が出てきたから、クーポン使って泊まったんだ。それなのに外は連日の吹雪で、外に出ることもできやしない。インターネットも繋がらない。せっかく有給を一週間取ってきたのに

「山本さん」

「はいっ!」今度は何だ。

「先程あなたはソリティアをやっていたと仰いましたね」

「はい」

「しかしその後あなたが部屋の外に出るのを見た人がいます」

「あー」オレは思い出す。

「風呂に入ったんですよね」

「風呂に」「はい」「その後は?」

オレは考える。

ソリティアをやっていました」

バンっと大柄な男が机を叩いて立ち上がった。

ソリティアソリティアって、そんなわけないだろう!」

何がそんなわけないのだろうか。

「こんなところまで来て一日中ソリティアをやっているなんてありえない」

オレは戸惑った。

「でも、オレはソリティアが大好きなんです」

ソリティアだけじゃダメなのか?

ソリティア以外もやってました、オセロとかも」

一応補足しておいたが誰も聞いていなかった。

ソリティアは一人用ですが、オセロは対人戦なのでハラハラしますよね」

誰も何も言ってくれなかった。

 

推理が佳境に入ってきたようで、探偵の演説にも熱が入ってきた。

「いいですか、あなたが食べたのはカレーではない!ハヤシライスだったんです」

どんな事件なんだ。

「そんな…じゃあ今まで私が作っていたのは」

「奥さん、ハヤシライスです」

女性が泣き出す。泣くなそんなことで。

あと、逆だろ。ハヤシライスと間違えてカレー作るのはまあわかるけどカレーと間違えてハヤシライス作ることはないだろ。

「つまり犯人は」

やっと終わりか。

 

「山本さん、あなたです」

 

「え?」

山本さん、と確かにそう言った。山本はオレだ。

「ちょっと待ってくれ、なんで」

「山本さんあなた嘘をついていますね」

「嘘?だからオレはソリティアが大好きなんだって」

なんなんだ。ソリティアをやってはいけないのか。ソリティアは犯罪か?

「そうですね」

「そうですねってなんなんだよ」

「ですから、あなたはソリティアだけやっておくべきでした」

私は自分のミスに気がついた。

「外は連日大雪が降っていました。外に出ることはできず、インターネットも使えない。でもあなたは先程、オセロをやっていたと言いましたね。この状況でオセロはできない。特に対人戦は」

 

私は何も言い返せなかった。確かに、私はこの男に敗北したようだ。

「だからソリティアが好きなんですよ」

と私は笑った。誰も笑っていなかった。

 

 

 

日記(10月23日)

「ちょっとパン食べ過ぎか」とオレは言った。

 

目の前に座る兄は「佐賀県産鶏のブランケット〜トランペット茸のバターライス添え〜」をCoCo壱のハンバーグカレーのようにかき込みながら「なにがよ」と言ってワイングラスに注がれた水を一気に飲み干した。兄は徹底した下戸である。

 

土曜日の昼、両親と兄とオレは常連となっているフランス料理屋でコースを食べていた。兄はここで添えられるパンが大好きで、「レストランを閉めてパン屋にした方がいい」などと失礼なことを言っていた。

この日も料理が来る前に出されたパンをサッサと平げ、パンのおかわりを持ってきたソムリエに「今日はちょっと危険なペースですね」と言われていた。酒じゃなくてパンのペースを危惧される、変な人。

 

兄は身長は150cm台後半だが、ガタイがよく、体重はオレよりもある。しかし特に運動をしているわけではなく、休日は寝るか、ゲームをするか、パチンコを打つかであり、どこから錬成される筋肉なのかは誰も知らない。小学校で担任に呼び出され、中学で補導され、高校で無期停学になった彼も今や小学校の教師である。

 

ワインを既に三杯空けている父が「お茶とコーヒーは何故誕生したのか」というウンチクを語り出した。兄は腕を組んで目を瞑っている。

母は小声でオレに「ハンくん(ペットのコーギー)がわかんない話聞いてる時の顔」と言って首を少し傾けて視線を右上に泳がせ、「ふ〜ん」と呟く。父は意に介さず「とにかく、人類にとって、水は不味くて飲めなかったんですよ」と喋り続ける。父は農学博士であり、大学で教鞭を振るっているが、母と兄にかかればこの通りだ。

 

父と兄は「オレンジとカスタードのクレープ」を、母とオレは「ゴーヤのアイスクリーム」をデザートに注文した。今は「兄が小学校の時に釣ってきたザリガニを鍋で茹でて醤油と塩をかけて食べ、残った殻を担任の机に突っ込んでおいた」という話で盛り上がっている。

 

兄が母のゴーヤアイスを少しもらい、食べると「なにこれ」と吐き捨てるように言った。オレは「人の食べ物もらって『何これ』とか言う人いないって」と言った。母が「ほら、もっと食べな」とゴーヤアイスを兄に与え、兄は口に放り込んで、「氷だ」と言った。「もう二度とあげるな」とオレは言った。

 

 

 

 

焼きそば

さて、と呟いてオレは腕捲りをし、キッチンを見回した。美咲に料理を作るなんて久しぶりだな、と思った。付き合いたての頃はたまにこうしてオレが作ることもあったのだ。今日はあの頃よく作った焼きそばにしてやろうと決めていた。材料も全部買ってきてあるのだ。

 

まずは豚バラ肉を一口大に切って、油を引いたフライパンで炒める。ここで、肉に「あっ、なんだなんだ」と思わせる間もなく一気に炒めてしまう、というのがコツだ。そんなことを美咲に言ったら何なのそれ、と笑っていた。オレは彼女のその困ったような笑顔が好きだった。困ったような笑顔が好きなんてのは屈折しているかもしれないが、そのときに少し首を右に傾ける仕草がかわいらしかった。

 

そんなことを考えていたら少し肉を焦がしてしまった。でもカリカリの肉もまた一興だろう、と思った。オレはただでは転ばない男だ。肉をフライパンから取り出して、野菜を切る。

 

美咲と出会ったのは二年前の10月18日だ。強引に誘われた数合わせの合コンで、目をぎらつかせる友人を横目に手持ち無沙汰に箸袋をいじっていると「お互い大変ですね」と向かいの女性が声をかけてきた。彼女が美咲だった。その時も彼女は困ったように笑ったのだった。

 

出会った頃のことを考えると自然と口角が上がってしまう。今日はあの頃よく作った焼きそばを作ってやるのだ。美咲も久しく食べていないわけだから、感動してくれるに違いないのである。玉ねぎを切り終わって、次は人参を半月切りにしていく。

 

それからほどなくしてオレたちは付き合い始めた。そうして一年半ほど経ったとき、美咲が「ごめんなさい、もう好きではなくなったみたい」と言った。オレは激しくロウバイして、「そんな、急に言われても」などと男らしくないことを言った。

美咲はその時も困ったように笑ったのだった!

 

あっ

人参を抑える手が滑ってしまった。左手の指を切ってしまった。興奮しているので血がドクドク流れてしまう。これはかなり深く切ってしまったみたいだな。まずいまずい。焼きそばに血が入ってしまってはまずいではないか。せっかくのオレと美咲の思い出の焼きそばなのだ。

 

オレは絆創膏を探した。確か、一ヶ月前には戸棚に入っていたはずだ。美咲の白い戸棚に手をかけると血がベットリとついてしまった。ああ、美咲に怒られてしまうではないか。しかしこれは後で拭くことにしてまずは絆創膏を指に巻くことだ。よしよし。

 

野菜と麺を炒めて、最初の肉を戻す。よしよし。最後にソースをかける。この最後の仕上げで味が決まるのだ。そういえば、美咲は最後の仕上げが甘かった。合鍵を返して、とオレに言うのは良かったが言うのが遅すぎた。その時オレは既に合鍵を作っていたのだった。だからこうしてオレは焼きそばを作ることができているのだ。そうなのだ。美咲は驚くだろうか。困ったように笑ってくれるに違いない。焼きそばは美味しくできたのだから。