銀色の玉の中で息を潜めて丸まっている

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妖怪の話

昨日天狗を見たんだ。あ、信じてないでしょ。本当に天狗を見たんだよ。

 

昨日も僕は一人で川で遊んでたんだ、あの、ほら山の中に流れてる、綺麗な川だよ。あそこはあんまり人も来ないし、よく魚を捕まえたり泳いだりして遊んでるんだ。うん、一人だよ。

 

ザザッて音がしたから上を見たら、木の上を黒い影がすごい速さで動いたのが見えたんだ。鳥かな、と思ったんだけど、鳥にしては大きすぎた。でもすぐに影は見失ってしまったから特に気にせず遊んでたんだよ。

 

しばらくして、ふと振り返ったら、岩に天狗が座ってたんだ。本当に天狗だったんだよ。鼻が長くて、目は爛々として、髪の毛が腰くらいまであった。

 

僕はびっくりして声も出せずにその場に突っ立っていた。天狗の大きな目から目が離せなかった。金縛りにあったように動けなかった。そのままどのくらい時間が経ったのかよくわからない。一瞬だった気もするし永遠だった気もする。

 

鳥が鳴いた。その声で僕は我にかえって、一目散に泳いで家に帰った。今までで一番速く泳いだと思う。水掻きが痛くなるほど必死に泳いだ。

 

家に着くと僕はすぐに「天狗だ!」と叫んだ。お母さんが胡散臭そうに僕を見た。「天狗を見たんだ」と言うとお母さんはため息をついて「あんたねえ」と言ってくちばしを鳴らした。

 

「頭のお皿も固くなってきたのに、いつまでそんなこと言ってるの。もう赤ちゃんじゃないんだから」

そんなこと言われたって本当に見たんだよ。

「天狗はね、想像上の妖怪なのよ。いるわけないじゃない」

でも……

「ごちゃごちゃ言わないで早くご飯食べちゃいなさい」

 

僕は魚を頭から丸呑みにしながら思った。妖怪が本当はいないなんて誰が決めたんだ。妖怪がいたって良いじゃないか。本当に天狗を見たんだから、僕は。

 

妖怪っているのかな。ね、どう思う?