銀色の玉の中で息を潜めて丸まっている

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アルミ缶の上にあるミカン

アルミ缶の上にあるミカン。

 

オレは無機質な部屋で一人腕組みをして座り、それを見つめていた。ここはどこなんだ。気付いたらここにいた。部屋の真ん中にアルミ缶があり、その上にミカンが乗っている。ふざけているのか。

 

立ち上がってあたりを見回す。扉がある。とりあえず扉のノブに手をかけて回す。当然のように鍵がかかっているが、なんとなく察しはついていた。扉にはチラシのようなものが貼ってあり、「美味しい!安い!ちらし寿司」とある。なるほど。くだらない。

 

ため息をついて振り返るとアルミ缶の上にあったミカンが消えていた。見回すが部屋の中にミカンはない。ただアルミ缶だけが残っている。

 

机の上にチェス盤がある。相手もいないのになぜこんなものがあるんだ。よく見ると駒が足りない。キング、クイーン、ルーク、ビショップ、それからポーン。何か足りないが忘れてしまった。とにかくこれじゃチェスはできない。

 

何か部屋に異臭がする。アンモニアのような。臭いの発生源を探すと、部屋の隅の観葉植物だった。名前も知らない草だ。

 

窓もないこの部屋では、何日経ったかわからない。壁にかかったカレンダーは何故か10月しかない。あれを眺めるのも飽き飽きしてきた。

 

退屈を極めたオレは、気づくと部屋の隅に飾ってある花に喋りかけていた。話し相手を欲していたのだろう。それからオレは時たま花とお喋りを楽しむようになった。

 

さらに時間が流れた。オレは急に空腹を覚えた。今まで空腹や喉の渇きはなかったのに。ただ、この退屈な時間を終わらせる良い機会だと思った。オレは静かに横たわった。走馬灯を見られると思ったが、なかなか流れない。オレは走馬灯を見るまでは死ねないと思い、辛抱強く待った。

 

やがて走馬灯が流れ始めた。

この部屋で起こった出来事が浮かんだ。

アルミ缶の上にあるミカン。

ちらし寿司のチラシ。

扉とビラ。

ミカンが見っかんない。

チェスにはナイトがないと。

臭い草。

秋に飽きた。

花と話す。

走馬灯を待とう。

 

しかし最後に心残りがあった。この窓のない部屋では叶わない願いだった。オレは呟いた。

「太陽が見たいよう」

「こちらが現場です」

「新米、こいつの死因はなんだと思う?」

「そうですね…餓死な気がします」